1. 「リアルスペース」をデザインする

インターネットが発達した現代社会においては、各種芸術表現がウェブ上で展開される機会も増えてきていますが、表現を行う場所としてのリアルスペースの重要性は全く失われていません。むしろ、美術、音楽、映画、演劇、ダンスといった個別のジャンルを飛び越えて、各芸術表現が結びつき、従来とは違ったリアルスペースの活用がなされる機会が、従前に比べて多くなっているように感じます。また、以前は表現を行う場所としてとらえられていなかったリアルスペースもイベントを行うスペースとして利用される機会も増えてきています(自宅やシェアオフィスでイベントを開催する試み等)。

本来、イベント等における表現は自由に行われるべきものではありますが、個人の自由を無制限に認めることは、他人の自由を制限することにつながります。各個人の自由がぶつかり合う場合に、これを調整するために法令等による各種の制限が設けられることで、私達の社会は円滑に動いています。
商業施設としてのリアルスペースの運営に関しても、施設の態様等に合わせて、環境の問題、安全の問題、衛生の問題等の様々な観点から各規制や基準等が定められ、行政からの許認可を得たり、届出を行ったりすることが求められます。

もっとも、時代の進展と共に、従前とは違った形態での営業形態や利用方法が生まれ、法令を厳密に適用すると、定められた基準や条件等を満たさない(満たすことのできない)リアルスペースも出てきます。これらについては、ある種グレーゾーンの存在として、行政や地域社会から黙認・許容されて、存在してきました。

ところが、ここ数年の大阪アメリカ村を始めとするクラブの営業取締りの強化に見られるように、行政から黙認されてきた存在が今になって取締りを受けるという事例が増えています。
また、以前は嗜好の同じ者が集まる小さなコミュニティの中でひっそりと行われていたようなイベントが、ブログやSNSで容易に個人が不特定多数の人に情報発信できるようになったがゆえに、広い世論にさらされ、社会問題となることもあります(阿佐ヶ谷ロフトでの人肉食イベントの事例等)。パフォーマンスの内容に問題があったとの指摘がtwitter等でなされ、批判を受けたことに伴い、当該団体が責任を取る形で次回公演(時期は未定)をもって解散する旨を発表した事例も記憶に新しいところです(バナナ学園純情乙女組の事例)。

このように、法令遵守の姿勢がより強く求められることの多くなった現代においては、表現を行うアーティスト、表現の場を提供するイベントスペースの運営者、イベント企画者が、イベントスペース自体の運営やイベントの開催にあたって、法律上、どのような問題が生じうるのかを整理し、現状を認識して、必要な手続等を行ったり、どこを超えると違法となるのかを意識したりすることは、表現の場としてのイベントスペースやイベントを守っていくうえで、重要なことであるといえます。

本講座第1回、第2回では、リアルスペース確保のための契約や建築法規の整理、イベントスペース運営やイベントの企画を行ううえで知っておきたい各種法規(風営法、興行場法、食品衛生法等)の整理を行ったうえで、ゲストトークにより、現場の人間がどのように試行錯誤しているかを追体験していただき、今後のイベントスペース運営やイベント企画のために活用することのできる視点を共有できるようにしたいと考えています。

藤森 純(弁護士/Arts and Law)





法律のある風景 ― Legal Perspective
松戸駅西口6号バイパス(岩瀬立体)側壁

「法」は目に見えませんが、ときに私達と人/物/場所/情報などの周辺環境との関係をルール付け、私達の行動に影響を与えます。「法」をうまくコントロールするためにも、「法」を目にすることができたら。本コラムでは、「法」というルールのビジュアライズを試みました。

道路交通法
道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図り、道路の交通に起因する障害を防止することを目的とする法律です。道路は、通行の方法や使用のルールが細かく決められており、道路で作業をする場合には警察署長の許可を受ける必要があります。但し、①現に交通の妨害となるおそれがないと認められるとき、②許可された条件に従って行われることにより交通の妨害となるおそれがなくなると認められるとき、③現に交通の妨害となるおそれがあるが、公益上又は社会の慣習上やむを得ないと認められるときは、警察署長は道路の使用を許可しなければなりません。
Keyword:【道路交通法】【道路の使用許可】【表現の自由】

著作権
人の思想・感情を表現した「著作物」の利用を独占させる権利をいいます。著作権が発生した著作物は、原則として、著作者に無断で利用することはできません。ただし、"建造物の外壁などの公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置された美術の著作物"は、例外的に自由に利用することができます。例えば、壁画を写真に撮って、講座の広報パンフレットに掲載することも。
Keyword:【著作権法】【美術の著作物】【著作権の権利制限】

所有権
物を自由に使用・収益・処分する権利をいいます。「物」には、土地または定着物である「不動産」と、不動産以外の物である「動産」に分けられます。他人の所有物である壁や建物に無断で絵を描いた場合は、民法上「不法行為」に基づく損害賠償を受けたり、刑法上「器物損壊罪」などで処罰されたりする可能性があります。もちろん、このリーガル・ウォールのように、所有者などに許可を得た物に描く場合や自分の物に描く場合には、壁や建物も立派な支持体になります。
Keyword:【民法】【刑法】【所有権】【表現の自由】



※但し、下記の画像はライセンスの対象から除きます。



ZEDZ + 大山エンリコイサム + MHAK 「マッドウォール プロジェクト」
コンクリート壁面にスプレー塗料、ペンキ 4m×60m
松戸、千葉
2010年