第1回:「リアルスペース」をデザインする/レクチャー

イベントを行う自由とそのためのルール作り
後半の担当は藤森純弁護士。
「リアルスペースの運営」と題して、確保されたリアルスペースでイベントなどを行ったり、イベントスペースを運営したりする場合に必要となる許認可等の問題について取り上げました。


Aくんは、自分達や仲間が楽しめるイベントを行う場所を作るために、物件を借り、イベントスペースを作ることにしました。

せっかくだから、食べ物も出したいし、お酒も出せるようにしたい、DJに音楽を掛けてもらってお客さんに踊って欲しいし、バンドに演奏してもらってもいい、映像も流せたら最高だ、深夜にもイベントを行いたい・・・。アイデアは尽きることがありません。

さて、Aくんは、思いついた様々なアイデアをそのまま自由に実現できるのでしょうか?


人がイベントを開催して自身の表現欲求を満たすことは、「表現の自由」として憲法上認められた人権です。また、人がイベントを行うスペースを運営、営業することも、「職業選択の自由、営業の自由」(3)として憲法上認められた人権です。 このように、イベントを開催したり、イベントスペースを運営したりすることは、憲法上認められた人権として、本来自由に行われるべきです。
しかし、憲法上の人権だからという理由で、全て自由に行って良いということになれば、他人の権利と衝突したり、社会の秩序を害したりするおそれがあります。例えば、閑静な住宅地にある一軒家で深夜に周りに響き渡るような大音量で音楽を流してクラブ営業をしたらどうでしょうか。クラブを営業する自由があるのだから何をやっても良いんだと言って権利を行使すれば、夜に静かに過ごしたいという近隣住民の権利を侵害することになってしまうでしょうし、治安の面からも問題がありそうです。
このように、憲法上の人権でも無制限に行使が許されるわけではなく、他人の自由との調整を図ったり、社会の秩序が破壊されないようにコントロールしたりするために、一定のルールを定める必要性があります。このルールとして、様々な法律や制度が設けられるわけです。

事業を行うための法律・許認可・届出等をおさえる
上記のルールの1つとして、一定の営業を行うにあたって、許認可や届出が必要な場合があります。ここで、まずは、許可、認可、届出(4)といった各用語を整理しておきましょう。
  • 許可:法令により一般的に禁止されている行為について、行政機関が特定の場合にその禁止を解除し、その行為を適法に行えるようにすること【例】飲食店営業、風俗営業、古物営業
  • 認可:行政機関が個人・法人の行為を補充して、同意を与えることによって、その法律上の効力を完成させる行為【例】運賃の認可(道路運送法) 
  • 届出:放任状態だと違法行為が行われる可能性があるため、個人・法人がある行為を行うに当たって、監督官庁に事前通知する義務を課した制度【例】性風俗関連特殊営業
許可と認可を合わせて、許認可と呼ばれることがあります。許認可と届出との違いは、前者については、許認可するかどうかを行政機関が判断することになるのに対して、後者は要件さえ満たして届出れば認められ、行政機関の判断が行われないという点にあります。 許認可等を担当する機関・窓口としては、都道府県知事、公安委員会・警察、保健所などがあります。

イベントスペースの営業に必要な営業許可
イベントスペースを営業(5)していくために必要な営業許可として、今回は、次のものを取り上げて紹介しました。
  1. 食べ物を出したい(6):食品衛生法に基づく許可
  2. 客を踊らせたい、深夜にお酒を出したい:風営法(7)に基づく許可
  3. 映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸を客に見せたい、聞かせたい興行場法に基づく許可
食品衛生法に基づく飲食店の営業許可
食品衛生法の目的は、食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を行うことで、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止して、国民の健康の保護を図ることにあります。
食品衛生法は、飲食店の営業のためには、都道府県知事の許可が必要であるとしています(8)。この許可を受けるためには、条例などに定められる施設、設備等の基準を満たす必要があります。また、食品衛生責任者を置く必要があります。食品衛生責任者は、調理師や栄養士等の資格がなくても、食品衛生責任者養成講習(9)を受講すれば、なることができます。
なお、食品を扱う場合でも、食品衛生法に基づく営業許可が不要である場合もあります。例えば、ジュース、ビールを缶のまま販売する場合(10)、野菜、果物、漬物、菓子類、包装された弁当、サンドウィッチ、おにぎり、魚の干物など塩乾物、ハム、ソーセージ、かまぼこ類、焼きとうもろこし、焼き栗、焼き芋、綿あめ、ポップコーン、ポン菓子を販売する場合などです。
食品衛生法に基づく営業許可を受ける必要があるのに、無許可営業を行った場合には、罰則が設けられています(11)

風営法とクラブ営業
風営法の目的は、善良の風俗と清浄な風俗環境の保持、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為の防止にあります。
風俗営業には、狭義の風俗営業と性風俗関連特殊営業があります。狭義の風俗営業は、都道府県公安委員会の許可(12)が必要ですが、性風俗関連特殊営業に関しては、届出制(13)となっています。風俗営業の種類については、風営法2条に規定があります。
このうち、DJイベントなどが行われるいわゆる「クラブ」の営業は、風営法2条1項3号の営業(「3号営業」と呼ばれます)にあたるとされています。3号営業は、「客にダンスをさせ」と定めていますが、ダンスの定義については規定されていないので、ダンスとは何を指すのかについての解釈が問題となることがあります。
3号営業を始め多くの風俗営業では、午前0時から日の出までは営業禁止とされています(地域によっては、午前1時まで営業が許されている場合もあります)(14)。このため、風営法の許可をとっていたとしても、深夜のクラブイベントを行うことは、認められていません。この点について、今まではグレーゾーンとして黙認されてきましたが、近年は、警察の取締りが厳しくなり、摘発される店も増えていると言われています。
また、風営法は、客室床面積が1室につき66㎡以上(そのうちダンススペースが5分の1以上)であることを要求しているため、いわゆる「小バコ」と言われる、スペースが小さいクラブに関しては、営業許可を取りたくても取れず無許可営業を行っているというケースもあるようです。
風営法に関しても、無許可営業を行った場合や時間外営業を行った場合に罰則が設けられています(15)。 

興行場法
興行場とは聞きなれない言葉だと思いますが、「映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸、観せ物を、公衆に見せ、聞かせる施設」(16)をいいます。そして、都道府県知事等の許可を受けて、業として興行場を経営することを興行場営業といいます(17)
興行場法の目的は、公衆衛生の向上増進とされていて、例えば、便所や喫煙所といった設備の設置基準等が設けられています。この設置基準については、大きい映画館や劇場を想定して設けられているため、小さなライブハウス等では興行場法で求められる設置基準を満たすのが難しい場合もありそうです。
興行場法について無許可営業を行った場合、罰則が定められています(18)

後半のまとめ
近年、リアルスペースの活用形態として、今までになかった比較的新しい利用の仕方をすることも増えており、これらに対して、どのような法的規制が課せられていくのか、不透明な部分も多くあります。新たな活用形態が認められていくことで、文化の発展に寄与することも多いと思われますので、それに対して、本当に法的な規制を課して行く必要があるのかは、今一度、議論を行っていく必要があるでしょうし、表現の自由、職業選択の自由、営業の自由といった私達の憲法上の権利が問題となる場面であることは、もっと意識されてもいいのかもしれません。
この後の質疑応答では、クラブイベントのことなどを中心に具体的な質問がいくつも挙がりました。
 第1回はここで終了し、第2回の寺井元一さん(株式会社まちづクリエイティブ)、大山エンリコイサムさん(美術家)を迎えたトークセッションに続きます。





















(3)憲法22条2項。営業の自由については、職業選択の自由に含まれ、憲法上保障されると考えられています。












(4)そのほか、「特許」といったものもあります。














(5)「営業」とは一般的に営利目的で反復継続して行うことをいいます。営利目的は、ざっくりいうと、金銭等の利益を得る目的をいうと考えていただければ良いでしょう。
(6)飲食店の運営に関連する主要な法規としては、建築基準法、都市計画法、バリアフリー法、消防法、食品衛生法、風営法、屋外広告物法といったものが考えられます。普段意識することは多くないですが、私達の生活は、様々な法律によって規制を受けているのです。
(7)正式名称は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」
(8)食品衛生法52条
(9)時間は6時間程度、受講料1万円です。
(10)コップに注いで販売する場合は許可が必要です。



(11)食品衛生法72条







(12)風営法3条1項
(13)風営法27条1項、31条の2第1項






(14)風営法13条1項










(15)風営法49条1項1号
 
 
 
(16)興行場法1条1項

(17)興行場法1条2項
 
 
 
 
(18)興行場法8条1号