第3回:「ウェブ空間」をデザインする/レクチャー

Arts and Lawがコーディネートする講座シリーズ、「Creators and Law―Creative Projectのためのリーガル・デザイン」の第3回・第4回が2012年11月10日(土)に開催されました。
本稿では、“「ウェブ空間」をデザインする―利用規約、個人情報の取扱い/電子取引など”と題して、メンバーの永井幸輔、馬場貞幸の両弁護士が行った第3回のレクチャーをレポートします。

新しい空間の新しいルール作り
インターネットがますます身近なものになり、クラウドファンディング(1)、クラウドソーシング(2)といった新しいウェブサービスが登場している現在、創造的な活動を生み出す多くのサービスが現れる一方で、その新しさゆえの課題もまた目立ってきています。
今回のレクチャーは、ウェブという新しい空間における法的な課題とそれらへの対処法を紹介し、思わぬ落とし穴にはまってしまわないように、また法の仕組みを知ることで逆に新しいアイディアを生み出すきっかけともなるようにと企画されました。

レクチャーは前半のタイトルを〈「ウェブ空間」をつくる法律の「骨」〉、後半を〈「ウェブ空間」をつくる法律の「肉」〉とし、「骨」ではウェブサービスを取り巻くルール(利用規約、プライバシーポリシー、規制法)の紹介と対処・利用法について、「肉」ではクラウドファンディングを例に取り、既存のサービスがそれらのルールとどう向き合いかつ積極的に利用しているか、また利用していくべきかについて、それぞれ解説されました。

3本の「骨」 
前半は馬場貞幸弁護士の担当。
ウェブサービスをめぐるルールを大別すると、利用規約、プライバシーポリシー、規制法の3つに分かれます。
利用規約は、サービス側がユーザーにサービスを使ってもらうにあたってのルール。
プライバシーポリシーは、ユーザーからサービス側が集めた個人情報をどう取り扱うかのルール。
そして規制法は、サービス提供全般に渡って、それらが適正に提供されるように国家が定めたルール。利用規約やプライバシーポリシーも規制法の制約を受けます。

利用規約というサービスの設計図 
まずは利用規約から話が始まります。 
馬場弁護士によれば、利用規約は「サービスの設計を法の観点から再構築したもの」。言いかえれば、サービス提供者がユーザーに対し示す、サービスを適正に利用するにあたり必要な作法や、サービス利用にあたり禁止される行為などについて規定するルールです。
法的性質としては、規約は「契約」に近いもので、サービス提供者とユーザーの間の合意に基づいてはじめて効力を持ちます。 ポイントは、契約と違って利用規約はサービスを提供する側が自由に作ることのできるものであるということです(もちろん法律に違反することはできませんが)。

利用規約作成にあたって考えるのは「内容」と「ユーザーを拘束する方法」。「内容」には2つのルールを盛り込む必要があります。「利用方法のルール」と「紛争が生じた場合のルール」です。
「利用方法のルール」は、“入り口から出口まで”つまりサービスの利用開始から利用をやめるときまでの利用方法が書かれていることが大事です。例としては、そのサービスやユーザーの定義、サービスの目的、そのサービス上で作りだされたり投稿されたりした著作物の権利の帰属、禁止行為事項などが挙げられます。 あとあとになって揉めないように、具体的に、明確に定めておかなければなりません(解釈の余地がないように、という言い方をしたりします)。
「紛争が生じた場合のルール」には免責条項、損害賠償額の制限、準拠法、管轄条項などが挙がります。これらは、ユーザーがそのサービスを使っていて何か損害を被った場合や第三者に損害を与えた場合に、誰がどのような責任を負うのか、紛争となった場合に、どのような方法により解決するかなどを定めたものです。
ところで、利用規約はサービス提供者が自由に作れるものなのだからと、どんな場合でもサービス提供者が一切の責任を負わないように取り決めができるでしょうか。答えはダメ、です。消費者契約法という法律(=規制法のひとつ)で「責任の全部を免除する規定は無効」とされているからです(3)
また、故意だったり重過失(4)(わざとに近いような重大な過失)でユーザーに損害を与えた場合には、責任の一部だけの免除もできません(5)。このように、「決めておかないといけないこと」と、それを「どのように決めないといけないか」を押さえておく必要もあります。

利用規約のもうひとつの重要な柱、「ユーザーを拘束する方法」。言いかえれば、ユーザーの利用規約に対する同意を得る方法です。例えば、利用規約においてよくみられる、「本サービスを利用することで本規約の全ての記載内容について同意したものとみなします」というような一文がこれにあたります。もっとも、こちらも、経済産業省の取り決めにより、ユーザーが事前に利用規約の内容を簡単に確認できるようなウェブサイトの作りにしておかなければいけません(トップページの分かりやすいところに利用規約へのリンクが貼ってあるなど)(6)。 
また、視点を変えると、最近では、アプリ方式のサービスなどではFacebookやTwitterといった、ウェブのプラットフォーム上で展開するものも多くあります。これらのサービスにおいては、逆にプラットフォーム側の利用規約の変更がサービスの展開に影響をおよぼすこともありえますので、プラットフォームに依存するようなサービスは、プラットフォームの利用規約で禁止されてしまわないよう、“目をつけられない”ように気をつける必要があるかもしれません。 

プライバシーポリシーは戦略的に
プライバシーポリシーは、個人情報保護法(7)の定めに対応して作られるものです。 実は個人情報保護法は一定の規模以上の事業者しか対象にしていません(8)。しかしながら、サービスが多くの人に利用されるようになれば対象となるので、早めにプライバシーポリシーを用意しておくことが有用であり、また個人情報の適切な取り扱いのルールを定めることはその責務ともいえます(9)。ウェブサービスの場合、ヒットすると急激にユーザーの数が増えることもありえるので、先手を打っておくのが賢明といえます。
内容についてもポイントがあります。例えば、プライバシーポリシーには個人情報の「利用目的」と「第三者提供」に関する規定を最低限盛り込む必要があります(10)個人情報保護法上、あらかじめ必要な事項をを公表しておくことで、いちいち個々のユーザーに利用目的を通知したり、第三者提供の際の同意を求める必要がなくなるからです(新しくユーザーがサービスに登録するたび個別に利用目的を通知していたのでは大変ですね)。

フリーミアムと特定商取引法、クラウドファンディングと資金決済法
そのほか、いろいろな法律による規制がからんでくる場合があります。 普及版を無料で配布して、高機能版を有料で販売する、いわゆるフリーミアム(11)を意識した販売方法では、特定商取引法(12)の広告に対する規制に気を配る必要があります(13)。無料と有料の違い、境い目をわかりやすくしておくことが大事です。
クラウドファンディングもその形式によっては、資金決済法(14)の規制対象となり得ます。単純に寄付を募って送金するような贈与契約方式のスキームは、「顧客の依頼を受けて資金を移動するサービス」なので資金決済法上の「資金移動業」に該当してしまい(15)、規制対象になってしまいますので、プロジェクトオーナーがパトロン(支援者)に対し何らかのリターンを付与する売買契約方式が用いられることが多いようです。

スタートアップ段階での法律専門家の起用を
利用規約、プライバシーポリシーの作成や、サービス運営にあたっての規制法の存在など、実はウェブサービスを取り巻く環境には法的な課題(リーガルリスク)がいろいろと存在しています。 事業規模が大きくなってからだとリーガルリスクを回避するためのコストも多くなりがちですから、サービス立ち上げ時からサービスの設計やビジネスモデルを含め、法律専門家に相談しながらサービスを作り上げていくことが望ましいといえます。












(1)不特定多数の人がインターネットなどを経由して他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指す、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語。
(2)不特定多数の人に業務を委託する新しい雇用形態を指す、群衆(crowd)と業務委託(sourcing)を組み合わせた造語。








































(3)消費者契約法8条1項1号
(4)結果の予見が極めて容易であるのに対応を怠った場合や、著しい注意義務違反のため結果を予見・回避しなかった場合をいう。言いかえれば、わざとミスをしたとしか評価し得ない場合。
(5)消費者契約法8条1項2号











(7)正式名称は、個人情報の保護に関する法律
(8)個人情報保護法2条3項5号、個人情報の保護に関する法律施行令2条
(9)東京都個人情報の保護に関する条例27条参照。事業者が個人情報を漏えいした場合、場合によっては不法行為責任(民法709条)を問われる余地もある。
(10)個人情報保護法15条、16条、18条及び23条





(11)クリス・アンダーソン『フリー』(小林弘人=監修・解説、高橋則明=訳、日本放送出版協会)において著者が提唱した、無料のサービスで顧客を引き付けることによって収益を上げるビジネスモデル。
(12)正式名称は、「特定商取引に関する法律」
(13)特定商取引に関する法律11条以下。
(14)正式名称は、「資金決済に関する法律」
(15)資金決済法2条2項