第3回:「ウェブ空間」をデザインする/レクチャー

クラウドファンディングのリーガルデザイン
後半の担当は永井幸輔弁護士。〈「ウェブ空間」をつくる法律の「肉」〉と題し、主にクラウドファンディングの事例を取り上げて、実際に動いているサービスが法をどのように活用しているのか、またどんな問題に直面しているのかを検討します。
「新しいプロジェクト特有のリスク、問題が見えてきている」と永井弁護士は言います。 アメリカのKickstarter(14)をはじめ、国内でもREADYFOR?(15) 、CAMPFIRE(16)など、成功しているクラウドファンディングが次々とあらわれ、クリエイティビティを支える新たなプラットフォームとして根付きつつあります。 一方で、事実と違う情報を提供してしまったためにユーザーの反感を買い、サービス停止に至ってしまったケースもあります。
いわゆる「フリーカルチャー」の典型のように思われるウェブ空間にも、法によるルール(ハード・ロー)や規範によるルール(ソフト・ロー)が存在していて、それらを破ると「炎上」してプロジェクトの継続が困難になってしまいます。 レクチャーでは、そのようなルールに既存のクラウドファンディングサービスがどのように対応しているか(もしくは対応を探っているか)が紹介されました。

CAMPFIREは「売買」 
マイクロ投資プラットフォームのセキュリテ(17) の運営会社の情報をよく見ると、「第二種金融商品取引業者」という表示があります。これは通常、証券ビジネスなど、金融商品取引法による規制を受ける事業を行う会社が登録するものですが、クラウドファンディング事業には必要なのでしょうか。
ここで、クラウドファンディングの類型を比べてみます。 類型は「寄付型」「購入型」「投資型」に分類できます。法的に見ると、それぞれ「贈与契約など」「売買契約など」「匿名組合契約など」をしているということになります。このうち株式引受契約などをしている投資型のクラウドファンディングは、金融商品取引法の規制対象になり得ますので、金融商品取引業者としての登録を得ておくことが必要です(18)。では、日本で運営しているサービスは、どの類型に当てはまり、それぞれの類型のなかでどのようにサービスを設計し、リスクを回避しているのでしょうか。
レクチャーではCAMPFIREを例に取りました。CAMPFIREは上記分類で言うと「購入型」にあたり、法的に見るとCAMPFIREで行われていること(プロジェクトを立ち上げた人が支援を募り、支援した人はプロジェクトが希望金額を達成したらリターンをもらう)は、民法でいう「停止条件付き売買契約」に該当します。 停止条件付き売買契約とは、平たくいうと「条件を満たしたら、お金を払ってモノを買うよ」ということです。クラウドファンディングという最新のシステムも、実は民法上のとてもベーシックな仕組みを利用して設計されているのです。
CAMPFIREの利用規約やガイドラインをさらに読んでいくと、そのリーガルデザインが見えてきます。 利用規約第1条には、「本サービスの目的と内容」として、(プロジェクトオーナーとパトロンの)「両者のマッチングの場を提供するものとします」と書いてあります。 これは、CAMPFIREで行われている売買契約において、CAMPFIRE自体は当事者ではありませんよ、ということを確認しているとも読めます。 ガイドラインの第2条の1項には、「リターンを(中略)を得る権利を購入し…」とあり、CAMPFIREでプロジェクトを「支援」して「リターン」を得る行為が売買であることを示しています。 さらに7項を見ると、「当社はパトロンとプロジェクトオーナーの間の一切の関係に関する責任は負わず…」と記載してあり、CAMPFIREのサービスはあくまでプロジェクトオーナーとパトロンとのマッチングの場の提供である、と明言すると同時に免責条項にもなっています。
このように、CAMPFIREは、利用規約やガイドラインにより、プロジェクトオーナーとパトロンの間で生じた法的紛争については自らがリスクを回避できるようサービスを設計していることが分かります。 

eコマースと法規制
「攻め」のリーガルデザインの次は「守り」。プロジェクトを継続していくために押さえておくべき、法規制についての話が続きます。
一定の「業種」もしくは一定の「取引」に対して、法による規制がかかる場合があります。 例えばお酒を(継続的に)販売する場合には、原則として酒税法によって免許を受けなければなりません(19)。ここでのポイントは、お酒を売るにあたって、営利を目的とするかどうか、不特定の者に売るか特定の誰かに売るかは関係がない、ということです。 先ほどのCAMPFIREは売買契約の当事者にはならない、という設計でしたが、もし当事者になるようなつくりになっていて、お酒を継続販売するためのプロジェクトを行うことになると、この酒税法の規制が問題になってくるかもしれません。

著作権を開くか、閉じるか
最後は、ウェブ空間において話題にのぼることの多い、著作権についてのレクチャーでした。
著作権は、著作権法に規定された権利で、「著作物」の下に発生します。「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)と定義されています。このうち、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」という部分は例示列挙と言われており、これら以外の種類の作品であっても著作物になります。重要なのは「思想又は感情を創作的に表現したもの」という部分です。「創作的」と言うには、最低限の個性があれば良く、例えば、幼稚園児が描いた絵日記も著作物であると言われます。また、同じ知的財産権である特許権等と異なり、著作権は登録などの手続きを行わなくても発生する権利です。そのため、ウェブサイト上の各種表現者にも著作権が発生している可能性があり、著作者に無断で利用すると著作権を侵害してしまう可能性があります。

昨今、著作権法は徐々に厳罰化に向かっています。著作権とは、作品についての権利を著作権者に独占させる権利であり、著作権の厳罰化は著作権をよりクローズドな方向に強化させるものと言えます。
一方で、著作権をオープンにする動きも活発です。一定のルールのもとで共有を促そうという方向です。 レクチャーでは、オープンの方向で代表的なツールとして、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)(20)が紹介されました。 著作権者は、CCライセンスを導入することにより、自分の作品がどのように流通していくかをコントロールすることができます。 現行の著作権法では「All Rights Reserved」つまり作品にまつわるすべての権利を保持するか、「パブリックドメイン」すなわち全ての権利を放棄するかのどちらかしか想定されていないところ、「Some Rights Reserved」つまり一部分だけの権利の保持、例えば作者の名前を適切に表示してくれるのなら自由に使っていいよ、という取り決めをすることができるようにするのがCCライセンスの機能です。 現行の法律を変えているわけではない(当事者間の合意により効力が発生するものであり、法的性質としては「契約」にあたります)ので、これも先の利用規約と同じようなリーガルデザインといえるかもしれません。
CCライセンスを使って写真の撮影やアップロードを許可することによって、ウェブサイトのページビューが伸びた事例も紹介され、ウェブ空間において、法律違反になるリスクを回避しながら作品を共有するメリットが語られました。

長時間にわたったうえ、専門的用語が頻出するレクチャーでしたが、受講者の方々には集中を保ちながら興味を持って聞いていただいていたように感じました。この後の質疑応答では、受講者の方々がそれぞれ向き合っている課題に置き換えた具体的な質問がいくつも挙がりました。

第3回はここで終了し、第4回の武田俊さん(KAI-YOU, LLC.代表)を迎えたトークセッションに続きます。








(14)アメリカのプロジェクト支援サイト。2012年には総額3億1900万ドルを調達するなど、世界最大規模のクラウドファンディング・サービス。
(15)2011年3月末のローンチ以来、5000万円以上の資金調達に成功した日本のクラウドファンディング・サービス。
(16)2011年6月末にローンチされた、日本最大級のクラウドファンディング・サービス。特にクリエイターが主導するプロジェクトにおいて有効活用されている。

(17)2009年にスタートした、音楽、畜産業、レストラン等の様々な分野の事業に小口出資を通じて参加することのできるマイクロ投資プラットフォーム。運営会社のミュージックセキュリティ-ズ株式会社は、元々はアーティスト発掘の資金を募るファンドを運営していたが、現在は上記のような事業者を広く支援対象として、投資家を募るファンドを運営している。
(18)金融商品取引法29条、2条1項9号、同条2項、同条8項



























(19)酒税法9条1項






















(20)インターネット時代のための新しい著作権ルールの普及を目指し、様々な作品の作者が自ら「この条件を守れば私の作品を自由に使って良いですよ」という意思表示をするためのライセンス。このライセンスを利用することで、作者は著作権を保持したまま作品を自由に流通させることができ、受け手はライセンス条件の範囲内で再配布やリミックスなどをすることができる。