第5回:「知的財産」をデザインする/レクチャー

Arts and Lawがコーディネートする講座シリーズ、「Creators and Law―Creative Projectのためのリーガル・デザイン」の第5回・第6回が2013年1月26日(土)に開催されました。本稿では、“「知的財産」をデザインする―著作権、商標権等の知的財産権、電子書籍等”と題して、Arts and Lawの永井幸輔、水野祐の両弁護士が行った第5回のレクチャーをレポートします。

知的財産権における新しいルール作り
インターネットによる情報流通の進化が、人々の生活や生産活動に大きな影響を与えつつある今日、情報を取り扱う権利である知的財産権は日に日にその重要さを増しています。それは、クリエイターにとっても対岸の火事ではありません。
今回のレクチャーは、知的財産権という古くて新しい法律の基本を紹介し、思わぬ落とし穴にはまってしまわないように、また法の仕組みを知ることで逆に新しいアイデアを生み出すきっかけともなるようにと企画されました。
レクチャーは前半のタイトルを〈知的財産権で「守る」〉、後半を〈知的財産権で「攻める」〉とし、「守る」では、現在法律で認められている知的財産法・知的財産権の基礎について、「攻める」では、既存の法律を前提にクリエイターが知的財産をプロジェクトの中で能動的に活かしていくための方法や事例について、それぞれ解説されました。

「オープン」と「クローズド」
前半の担当は、水野祐弁護士です。
導入ではまず、知的財産権を巡る一方の大きな流れとして、大企業やプラットフォームによる権利の強化、独占化、または囲い込みの強化が指摘されました。他方で、インターネットをベースに情報をオープンにしていくという、オープン化の流れもあります。このオープン化については、映画『Rip リミックス宣言』でわかりやすく問題提起されていたり、WikipediaやFacebookなども参加したアメリカでのSOPA法案への反対活動にみてとることができます。 この「オープン&クローズド」という概念は、今日のレクチャーとトークセッションを貫く、1つの大きな視点です。

著作権
クリエイターに関わる知的財産権として、まず著作権について説明されました。 著作権とは、創作的な表現を行った者に与えられる権利です。著作権には、著作財産権と著作者人格権の大きく二つがあります。著作権は特定の情報を独占させる権利であり、著作権を侵害すると、出回っている著作権侵害の物品を強制的に回収する差止の請求や、金銭賠償の請求を受ける場合があります。
著作権の細かい知識を話すとキリがありませんが、特に知っておいて欲しいのは、次の2つの重要な原則です。

1. 具体的な表現のみが保護され、事実やアイデアは保護されない 
著作権は、特許権と異なり、表現行為があれば、登録をしなくても自動的に発生します。このため、事実やアイデアを著作権で保護してしまうと、市民の自由に対する過度の制約になってしまい、文化の発展を阻害することになってしまいます。 

2. 創作性のない、ありふれた表現(選択の余地のない表現)は保護されない 
他の表現方法では表現することがおよそ想定できない場合、その表現を保護してしまうと、非常に不便なことになります。

では、著作権が侵害されているのか否かをどうやって見分けるのでしょうか。 見分けるフローは次のようなものです。

1.元の作品が著作物か
著作物でなければそもそも著作権は発生しません。
↓ YES
2.元の作品を観て、インスパイアされて作ったのか(パクったのか)<依拠したか>
インスパイアされていなければ、それはそもそも独自の創作です。 
↓ YES
3.元の作品に類似しているか
全く新しい作品を作ってしまった場合も、独自の創作であり、既存の作品の著作権に対する侵害ではありません
↓ YES
著作権侵害成立

具体例で見てみましょう。 会田誠『あぜ道』(1)と、HALCALI『音楽ノススメ』のジャケットです。 フローに当てはめて考えると、『あぜ道』は、【1】著作物であることは問題なく認められます。でも、【2】依拠の立証が難しい。裁判では侵害を主張した側が立証しないといけないからです。会田さん側であれば、会田さんの作品がどれだけ知られているかなどを立証していくことになるでしょう。会場に質問したところ、著作権侵害だと思う参加者が半分、非侵害が半分でした。 
また、CHEMISTRY『約束の場所』の歌詞が、松本零士『銀河鉄道999』の台詞をまねたことが著作権侵害だとして裁判になったケースがあります(2)。ここで重要なのは、もともとの台詞自体は著作物なのか、松本零士さんにそのフレーズを独占させて良いかという視点です。 『銀河鉄道999』は有名な作品で、『約束の場所』の作詞をした槙原敬之さんも子供の頃に見ていた、と松本さん側は主張しました。しかし、槙原さん側は、この台詞は平成17年版のコミックに付け加えられたもの、と反論し、裁判所は、作品を観ていた根拠がない、と判断しました(結果は、高裁で和解)。

著作権に関する契約についての注意点
次に、クリエイターにとって実務的に大事な、著作権に関する契約の注意点が3つあります。

1. 著作権を譲渡するか、留保するか
譲渡の対価に妥当性はあるか、二次利用の場合の条件をどう設定するかが重要です。メールのやりとりであっても、二次利用についての取り決めがあるとないとで、後から作品の使われ方が変わってきます。

2. 契約がなければ、原則として著作権は著作者にある!
原則として、著作権は創作をした人にあるということが重要です。もっとも、対価の大きい場合、業界の慣習がある場合など黙示的に譲渡の合意をしたとされるときは、著作権が譲渡とされたと判断されることもあります。

3. 著作権を譲渡する場合でも、後から自分が利用できる余地を作っておくことがベター
自らのホームページでポートフォリオとして紹介したり、賞に応募したい場合など、何らかの形であとから自分で作品を利用したい場合には、事前に言っておいて、メールで残しておくだけでも違います。大企業でも事前に話せば、この点は許してくれたり、契約書があればそれに反映してくれる場合もこれまで何件も見てきました。

クリエイターのための著作権5カ条
これまで述べた中でクリエイターにとって重要なことをまとめると、以下のようになります。
1. 著作権は、具体的な表現のみを保護し、事実やアイデアは保護しない
2. 著作権は、創作性のない、ありふれた表現(選択の幅がない表現)は保護しない
3. 特に合意がなければ、著作権は原則として自分にある
4. 著作権を留保し、相手に利用許諾する場合には使用範囲を明示する
5. 著作権を譲渡する場合には慎重に

商標権
商標権とは、文字・図形・マークなどを対象にした権利です。特許庁への登録が必要です。 商標権は、他の知的財産権と違って、更新が可能です。また、指定商品・指定役務(3)といった限られた範囲で、商標的に使用する行為(商標的使用(4))にしか権利が及びません。立体商標(5)としてカーネルサンダースも登録されています。 アート作品などに商標を使用する場合は、従来は商標的使用に該当せず、商標権侵害にあたらないとされてきました。社内でのみの使用も侵害にあたりません。他人の商品と識別する目印として使われていない場合も、商標的使用ではなく、商標権侵害ではありません。
例えば、有名なビックカメラの紙袋のビジュアルは、たくさんの企業ロゴが混在していますが、特定の企業の目印として使われておらず、いわゆる「商標的使用」にはあたらないので、商標権侵害は成立しません。ざっくり言うと、ある企業のマークを使用する際にはその企業のものと誤解されるような使用でなければよいといえます。ちなみに、「iPhone」の商標は、日本では携帯電話の分類でアイホン株式会社がすでに保有しています。このため、アップル社はおもちゃの携帯電話という分類でしか商標がとれていません。今は、アップル社はアイホン社から許諾を得て商標を使用していると考えられます。
以上の解説からは、アート作品では商標権侵害はそもそも問題とならないのではないかと考えることができます。しかし、実際には、アート分野で商標権が問題となった事例もあります。 岡本光博さんがルイ・ヴィトンやシャネルのファブリックを使用した作品『バッタもん』は、ルイ・ヴィトン社から警告状がだされた事例です。アート作品については、商売でないから商標権侵害にならないと従来は言われていましたが、現在ではアート作品でもビジネスになりうるので、いろいろな見解が出てきています。 商標権は、クリエイター・クリエイティブ業界にとっても重要です。商品化する際に、まずできるかぎり商標を登録しておくことが望ましいです。それは、ビジネスが軌道に乗ったときに、その商標が使えないといった事態を防ぐためです。ブランド名、ロゴの提案でも、商標権をチェックした上で行っているクリエイターもいます(GRAPHの例)。  

意匠権
意匠権とは、美感を伴う物品のデザイン、プロダクトデザインについて生じる権利ですが、大企業の大量生産品以外は、あまり使われていません。特許庁への登録が必要であり、国内のみで通用する権利です(海外では各国での登録が必要)。保護期間は設定登録から20年です。

特許権・実用新案権
特許権は、表現ではく、発明を保護する権利です。この権利は、特許庁での登録が必要で、原則として国内でのみ保護されます。実用新案権は、特許権の簡易版のようなものです。登録すると基本的には無審査で権利付与されるので、入り口のハードルは低いです。ただ、権利侵害が問題となった時に改めて権利の実体があるのか審査したうえでないと権利行使ができないので煩雑です。実用新案権は、後続を牽制する意味合いで登録され、実体がない場合が多いのはこのためです。
クリエイティブ分野に関わってくるものとしては、ゲームのハードウェア、ソフトウェア関連発明に関する特許があります。アマゾンのワンクリック特許とか。最近ではテクノロジーとアートを融合する作品もあり、今後特許権が活用される可能性もあります。また、たとえば、名和晃平『PixCell』に使用されているガラスビーズを固定しているゲルは、名和さんと企業が10年かけて共同開発したもののようですが(特許は未取得)、このようにアーティストと企業とのコラボレーションから特許が取得されることもあるでしょう。

不正競争防止法
不正競争防止法では、これまで述べてきた法の仕組みでカバーできない部分をカバーできることもあります。デッドコピーを禁止する規定(6)があり、著作権法で保護されない場合でも悪質なケースでは保護される場合があります。 不正競争防止法上問題となりそうな事例としては、後述するツタイミカさんの『マンガ皿』の事例があります。

知的財産を「守る」戦略
これまで従来の排他的・独占的に運用される知的財産権の基礎を説明してきました。しかし、これらの従来の知財運用は、権利化までの費用が高額であったり時間がかかる、実験的なことがやりにくいなど、柔軟性に欠ける面があり、インターネット/デジタル時代だったり、プロダクションが小規模化したりしている現状には整合しない場合もあります。これから新しいものをクリエイトしていく人にとっては、既存の法律に従ったやり方にとらわれない、オープンな知財戦略を考える必要がでてきています。




























 





































(1)会田さんの作品については、例えば、ミヅマアートギャラリーのアーティストページを参照。








































(3)商標登録の際に、商標の保護対象として指定した商品を「指定商品」、指定した役務(サービス)を「指定役務」という。商標は、この指定商品・指定役務と、同一または類似の商品・役務に使われた場合にのみ保護される(商標権侵害となる)。
(4)その商品や役務の出所を示す方法として商標が使われていること。商標の本質は、商品や役務の区別や出所を示す機能にあると言われており、そのような機能が発揮されていない使用方法については、商標では保護されないこととされている。
(5)立体的な形状について認められる商標で、商品や商品の包装、店舗の外観、店舗に設置されるマスコットなどが登録の対象となっている。1996年以前は日本では導入されていなかったが、立体商標保護のニーズがあり、また立体商標を認める世界的な趨勢もあったため、日本でも1997年より導入されている。


























(6)不正競争防止法2条1項3号