第5回:「知的財産」をデザインする/レクチャー

著作権の潮流
後半の担当は、永井幸輔弁護士です。
既存の法制度を前提にしつつも、既存の法制度では必ずしもケアしきれていない部分をどのようにクリエイターが能動的にコントロールしていくことができるのか、知的財産権による「攻め」の側面について検討されました。
インターネット時代の新しいメディアの代表に、「電子書籍 」が挙げられます。iPadやKindle等のリーダーの登場や、AmazonのKindle Store等の電子書店のオープンが続き、電子書籍はいよいよその本格的な普及が期待されています。 しかし、電子書籍の売上はここ3年横ばいで、なかなか経済的にインパクトのある結果が出ていません。
そうした中で、海賊版等の違法な著作物利用に対抗するべく、著作権法の厳罰化が進んでいます。違法ダウンロードの刑罰化や、技術的保護手段を回避したDVD等のリッピングの違法化等、年々著作権は強化され続けています。しかし、電子書籍の売上が伸びない理由については、他の娯楽(SNS、ソーシャルゲーム等)に時間をとられている、リリースされているタイトル数が伸びていない等の指摘もあり、著作権法の強化が電子書籍の未来につながるのか、必ずしも明らかではありません。 むしろ、コンテンツの新しい魅力を引き出せるような著作権の柔軟な運用を考えることも、コンテンツの未来に繋がるのではないのでしょうか。

知的財産を考える際の視点:4つの制約要素
ここで、アメリカの法学者であるローレンス・レッシグ教授が著書『CODE VERSION 2.0』 で紹介した一つの視点が提示されました。 レッシグ教授は、社会において人の行動を制約する要素として、「法律」「市場」「規範」「アーキテクチャ」の4つを挙げます。それぞれの制約は別個のものですが、それぞれが相互に依存し、影響し合っているといいます。 知的財産で「攻める」ための法的な戦略を考えるとき、この4つの視点は重要な物差しになります。以下、この4つの視点から、知的財産の運用についての新しいアプローチを検討して行きます。

法律の視点—クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
まずは、「法律」の視点です。著作権法のルールを「契約」によってコントロールするという観点から、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)(7)が紹介されました。
著作権法は、次の3つの理由から、ウェブの潮流に適合していないと指摘されることがあります。 

1. 「禁止」がデフォルトのルールである
2. 権利者の所在が必ずしも明らかでない
3. インターネット上のルールに対応していない

著作権法では、著作権の発生する著作物は勝手に使ってはいけない、つまり「禁止」を原則的なルールとしてデザインされています。また、著作権者から利用の許諾を得ようにも、インターネットには著作権者がクレジットされてない著作物が多数存在し、許諾を得ることが難しい場合も少なくありません。 このような著作権法のルールは、スピーディーな情報共有を可能にするインターネットの特性を制限する方向に働き、必ずしもインターネットに適合したものではありません。
それでは、著作権者が自分の作品を自由にコピーして楽しんで欲しいと考えたときは、どうすれば良いでしょうか。1つには、著作権者は著作権を自ら放棄することができますが(パブリックドメイン)、この場合、著作権者は以後作品に対して何のコントロールも及ぼすことはできません。そのため、著作権が放棄されることは現実には稀であり、結局作品が自由に利用できるようになるためには、著作権の保護期間が終了する著作者の死後50年を待つ必要があります。
このように、著作権法のルールはゼロワンの選択肢(All rights reservedか、パブリックドメインか)しか容易されておらず、著作権者にとっても利用者にとっても使いづらい面があると言えるでしょう。 


【図1】“All rights reserved”な著作権法(8)

 このような著作権法の堅い(All rights reserved)部分を、柔らかく(Some rights reserved)するツールが、CCライセンスです。 著作権者は、4つの条件(表示、非営利、改変禁止、継承)から選択して組み合わせたライセンスを作品に付けて明示することで、「この条件を守れば私の作品を自由に使っていいですよ」という意思表示をすることができます。それぞれの条件の内容は、図2のとおりです。


【図2】CCライセンスの4つの利用条件(9)

 これは、著作権法の「コピー禁止がデフォルト」というある意味で「クローズド」なルールを、CCライセンスという仕組みを利用して「コピー自由がデフォルト」の「オープン」なルールに逆転させていると言えるでしょう。これは、「法律」のルールを「ライセンス」、つまり、個人の間の「契約」を使ってインターネットに適合するルールに上書きするという意味で、法律を使ったデザインの一つといえるのではないでしょうか。

【図3】“Some Rights Reserved”なCCライセンスのデザイン(10)

CCライセンスは、現在世界中で導入されています。YouTubeSoundCloudflickrWikipedia等のウェブ上のプラットフォームや、TEDホワイトハウスアルジャジーラ等のコンテンツ提供サイト、その他Nine Inch Nails初音ミク西島大介等多くの作家・作品に採用され、現在5億以上の作品にこのライセンスが使用されています。


【図4】西島大介 comocomo_8(10)
 
また、最近のCCライセンスの導入例として、日本の美術館で行われている取り組み(「CC in Museum」と呼ばれる場合があります)が紹介されました。この取り組みでは、美術館で美術作品を撮影すること、また撮影した写真をインターネットにアップロードすること等をCCライセンス(表示―非営利―改変禁止)の条件の下で許諾しています。また、CCライセンスの条件に、脚立やフラッシュを使った撮影や、動画の撮影を禁止する条件を付加することで、他の観客やアーティストに配慮したルールがデザインされています。この取り組みは、東京都現代美術館の「こどものにわ」展「オランダのアート&デザイン 新・言語」、森美術館の「アイ・ウェイ・ウェイ」展「アラブ・エクスプレス」展「会田誠展:天才でごめんなさい」、広島市現代美術館「オノ・ヨーコ展 希望の路 YOKO ONO 2011」、目黒区美術館「メグロアドレス―都会に生きる作家」等の多くの美術館、展覧会で行われています。インターネットでそれぞれの展覧会の名前で検索を行えば、来場者が撮影した多くの作品写真に出会えるでしょう。作品と戯れる子どもたちの姿は感動的です。作品/子どもの関係性、更にはそれを見つめる保護者(撮影者)との関係性を感じ取ることで、作品の新たな一面を知ることができます。これも、法律によるデザインの一例といえるでしょう。 さらに、ファッション分野での例として、ファッションブランド
THEATRE PRODUCTS(シアタープロダクツ)」によるプロジェクト「THEATRE,yours」も紹介されました。このプロジェクトでは、服をつくるための設計図とも言える「型紙」にCCライセンス(表示―非営利)が付与されました。まるで料理のように、レシピ(型紙)の自由な利用を認めることで、型紙をアレンジして新しいデザインを作ったり、型紙から作った服をウェブサイト等で公開して共有したりできます。完成された服を着る、という従来の楽しみ方に留まらない、服を自分で作る楽しみや、それによって既存のファッションデザインの価値に改めて気付くことが意図されています(11)。さらに、最近は、CCライセンスではなく、ウェブサイトの利用規約等で独自のルールを作り、二次利用を許諾するケースも見られ、Perfumeの「Global Site Project」(12)や、佐藤秀峰さんによるマンガ作品「ブラックジャックによろしく」の二次利用規約が目覚ましい結果を残しています。
これらの事例からは、違法ダウンロードの刑罰化や二次利用の禁止によって著作権を強化する「クローズド」な戦略ではなく、CCライセンス等を利用して著作物の二次利用を積極的に認める「オープン」な戦略を採ることで、作品をより多くの人に届け、経済的メリットを生む可能性があることを指摘できるでしょう。 その反面、気を付けなければいけないのは、「常に」または「完全に」著作物の利用をオープンにすれば良いという訳ではないということです。著作権法のルールを厳格に適用した方が望ましい場合もあるでしょう。また、CCライセンスでは、4つの条件を組み合わせることで、どのような利用を許すのかコントロールされています。「CC in Museum」や「Global Site Project」、「ブラックジャックによろしく」の例を見ると、CCライセンスに加えて、又はCCライセンスとは別個に、目的に合わせた詳細に法的なルールをデザインしていることが分かります。これらの事例を見ても、オープンな著作権のあり方は様々で、まだまだ実験段階であるように思えます。 重要なのは、オープン/クローズのバランス自体を権利者自身が考え、具体的な契約・ライセンスとしてデザインしていくことなのではないでしょうか。

規範の視点—「マンガ皿」のケース
「規範」(13)の視点では、「マンガ皿」の事例が紹介されました。 マンガ皿は、マンガの伝統的な表現手法である「効果線」や「描き文字」を皿にプリントしたプロダクトです。このマンガ皿を模倣した商品が別の業者によって作られ、量販店で販売されたのではないかと指摘された事件がありました(14)。 マンガ皿のようなデザインプロダクトについては、それぞれ条件やハードルはありますが、意匠権、商標権、著作権や、不正競争防止法(形態摸倣)(15)による保護の可能性が考えられるでしょう。しかし、この事例では、そのような具体的な法律の話になる前に、量販店が自主的に商品引き上げを行ったようです。これは、量販店の企業コンプライアンスと共に、マンガ皿のファンが量販店にも届く形で、Twitter上で批判的なツイートを行ったことが影響した可能性も否定できません。このファンによる行動は、法による権利保護とは異なるものの、「パクってはいけない」という道徳的な規範が表面化することで、商品の引き下げという量販店の任意の行動を誘引し、この事件を1つの決着に導くきっかけになったのではないでしょうか。 法と規範を比較すると、法による保護には強制力がありますが、保護される範囲には限界があり、また、交渉費用や裁判費用等のコストがかかります。裁判になった場合には時間もかかるでしょう。これに対し、規範による保護の場合、強制力がないため相手方の任意の協力が必要ですが、低コストで、またときに非常に迅速な解決に結びつく場合があります。この法(ハード・ロー)による保護と、規範(ソフト・ロー)による保護を使い分けていくことは、クリエイターの利益保護の試みとして面白いアプローチかも知れません。自分達のファンになってくれるようなコミュニティを作ることは、今まで以上に重要になると思われます。

アーキテクチャの視点
「アーキテクチャ」(16)からの視点で注目されるのは、DRM(17)です。 DRMを採用することにより、消費者は通常の手段ではデータをコピーできなくなります。 DRMは、法律でも十分に禁止できない行為を、一企業の経営者の決定によって100%禁止できてしまうという意味で非常に強力な規制手段となります。 ただ、近年は、あえてDRMフリーで作品をリリースする場合も少なくありません。DRMではなく、インターネットに接続してサービスインすれば視聴できるという、より緩い形で使用を許す場合もあります。また、むしろコピーをしやすい様に出版データを積極的に公開する「オープン出版」(18)の試みもあります。実は、法的に「オープン」にするだけではなく、その作品へのアクセスや、二次利用しやすいためのソース(文章であればTXT、ビジュアルであればAI、EPSの形式のデータなど)を提供することも、「オープン」な戦略にとっては重要です。 アーキテクチャの視点においても、単にDRMでコピーガードするのではなく、どのように著作物を利用されたいのかを決めた上で、クリエイター自身がオープン/クローズドのバランスを作っていく必要があるでしょう。

市場の視点
「市場」(19)の視点からは、YouTubeやGoogleのストリートビューなどのサービスが注目されます。これらのサービスは、それぞれ著作権やプライバシー権との関係で法律的・規範的にリスクがあります。しかし、法に触れる可能性があるとしても、社会全体のメリットや、関わる当事者に高い市場的価値がある場合には、紛争にならずに社会に受け入れられる場合があります。 これは、法律的には「私的自治」と説明することもできるでしょう。「法律」と「当事者の合意(契約)」が矛盾する場合には、「契約」が優先されるというのが法の原則で、これを「私的自治」と呼びます(公序良俗違反の場合等、例外もあります)。一見法に触れるようなものも、契約がある場合や、契約に至らないものの「黙認」される場合等、当事者にトラブル化する意思がなければ、問題にならないのです。 また、極端な例ではありますが、世界的に著名なストリートアーティストのバンクシーの例が挙げられます。他人の家や壁に無断で絵をペイントするグラフィティは、日本で言えば、法律上、民事的には家や壁の所有者の所有権侵害となり、刑事的には器物損壊罪に該当する可能性があります。しかし、アーティストとして評価の高いバンクシーの作品には金銭的な価値があるため、ペイントされることで壁の所有者にとってむしろメリットが発生するともいえ、権利侵害されたことを主張しない場合もあるといいます。 このように経済的な(あるいは経済以外の)メリットをベースに、「契約」や「黙認」等によって法律のルールを修正し、やり過ごすことで、法律的には必ずしも適法性が明らかでない行為でも、事実上実行可能になる場合があることも指摘できるでしょう。

知的財産で「攻める」戦略
以上、従来の知的財産権保護とは異なるアプローチの可能性について、4つの要素からの検証が行われました。 4つの要素に基づくアプローチにはそれぞれ特徴があります。契約・ライセンスを用いて法律を上書きするアプローチに、規範・アーキテクチャ・市場的な視点によるアプローチを組み合わせることで、より実質的な知的財産権のあり方をデザインできるのではないでしょうか。 レッシグ教授は4つの要素を「制約」と述べます。でも、本当はこれらの要素を制約…「障害」や「壁」ではなく、もっとポジティブなコミュニケーションの道具として捉えることが可能かも知れません。平坦な「壁」も、角度を変えれば「すべり台」になるでしょう。私達は、法や規範、市場やアーキテクチャを切り口に、クリエイティブな活動を実践するためのより良い環境を作り、コントロールできるはずです。

質疑応答
レクチャーの後、会場の参加者との間で質疑応答が行われました。

Q1:例えば、AR3兄弟の「拡張現実」という言葉は商標登録できるのか。
普通名詞の組み合わせによる商標は登録しにくいようです。もっとも、仮に登録が一度拒絶されても、弁護士・弁理士が意見書等を提出することで、最終的に審査に通る場合もあるとのことでした。

Q2:外国語の書籍を日本語に翻訳した場合に、翻訳者に著作権は発生するのか。
翻訳は著作権法にも明記されている創作的行為の1つです。翻訳された作品は、翻訳元の著作物の「二次的著作物」であり、翻訳者にも二次的著作物についての独自の著作権が発生します。 例えば、J・D・サリンジャーの「The Catcher in the Rye」には、野崎孝訳の「ライ麦畑でつかまえて」や村上春樹訳の「キャッチャー・イン・ザ・ライ」等の複数の翻訳作品があり、それぞれの翻訳によって印象が全く異なります。翻訳には翻訳者ごとの個性があり、翻訳には翻訳者ごとの個性があり、著作権で保護されるべき創作行為があるといえるでしょう。
























 




(7)インターネット時代のための新しい著作権ルールの普及を目指し、様々な作品の作者が自ら「この条件を守れば私の作品を自由に使って良いですよ」という意思表示をするためのライセンス。このライセンスを利用することで、作者は著作権を保持したまま作品を自由に流通させることができ、受け手はライセンス条件の範囲内で再配布やリミックスなどをすることができる。

































































































(11)「ファッションは更新できるのか?会議」 事務局『ファッションは更新できるのか?会議 Vol.1議事録
(12)PerfumeのPVのモーションデータと音声データを公開するというプロジェクト。データを利用した二次創作が許諾されており、マンガ的なキャラクターにダンスを踊らせるなど、多くの二次創作が生み出された。












(13)「規範」とは、ここでは、道徳やマナー等の法とは別に存在する社会的な共通意識で、これによって人々の行動に影響を与えるものと考えます。例えば、「喫煙」に対する制約には、路上喫煙を禁止する条例.等の法による規制もありますが、それ以上に「歩きたばこ」や「禁煙場所での喫煙」等のマナー=規範による喫煙への制約も大きいといえます。
(14)事件の概要をまとめたウェブサイトを「ツタイミカ氏デザインのマンガ皿、パクリ商品が東急ハンズで販売される騒動」を参照。
(15)不正競争防止法2条1項3号













(16)「アーキテクチャ」とは、ここでは、ウェブサイト等の物事の物理的な設計や構造、テクノロジーをいうものと考えます。先の「喫煙」への制約を例にすると、健康を気にする人にとってのフィルターや、においを気にする人にとってのにおいの強さ等がこれに当たります。
(17)Digital Rights Managementの略称。デジタルデータとして表現されたコンテンツの著作権を保護し、その利用や複製を制御・制限する技術。
(18)一例として、ドミニク・チェンさんによる著書『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社
(19)「喫煙」を例にすると、たばこの値段によって、喫煙可能性が変わる。例えば、たばこ税が増税してたばこの単価が上がった場合、たばこの消費量はある減少することが予想される。