第6回:「知的財産」をデザインする/トークセッション

Creators and Law第6回では、ゲストに福嶋麻衣子さん/もふくちゃん(株式会社モエジャパン代表取締役)を迎え、プロジェクトにおける知的財産権の「守り」と「攻め」をどのように運用することが可能なのかを検証しました。

福嶋さんは、株式会社モエジャパンの代表として秋葉原のライブ&バー「DearStage(ディアステージ)」やDJバー「MOGRA」の運営、アイドルユニット「でんぱ組.inc」の総合プロデュースやTOY’S FACTORYと音楽レーベル「MEME TOKYO」のプロデュースを行いながら、株式会社ゲンロンの社外取締役等も務め、多様なアプローチでアート/ファッション/音楽と秋葉原文化の融合を実践しています。
1Fがステージ、2Fがバーで構成される
DearStageでは、モエジャパン所属のアイドルたちが接客を行います。福嶋さん曰く、ここは、現在禁止となった秋葉原ホコ天で盛り上がっていたカルチャーを再現する場所。一方、MOGRAはDJバーで、今注目のネットレーベル等がイベントを開催し、若い世代の人々を観客として今の秋葉原の音楽カルチャーを表現する場所として生み出されたそうです。
モエジャパンはタレントのマネジメントを行うプロダクションでもあり、その所属タレントは数十人。
DearStageMOGRAのアルバイトスタッフも合わせると、現在約60〜70人を抱える大所帯です。 
福嶋さんは、音楽作品や所属するアイドルの活動等をファンに広く届けつつ、彼女らの表現をビジネスとして成立させるため、日々試行錯誤を重ねていると言います。その中で、どのように法律や権利と向き合いコントロールしているかを知ることは、プロジェクトを運営するためのノウハウとしてとても参考になります。また、もともと
東京芸術大学で学び、アーティストとして活動していた福嶋さんが、どのように現在の「会社」という形での活動に辿り着いたのか、この点も非常に興味深いところ。今回ゲストとしてお招きしたのも、そこのあたりを詳しく伺ってみたかったからです。 
ここからは、福嶋さんとのセッションを通して、第5回のレクチャーで学んだ内容をより具体的・実践的に考えていきたいと思います。

プログラミングから「もふくちゃん」へ
子供の頃からプログラミングおたくだった、というところから福嶋さんの活動紹介が始まりました。なんと小学校3年からBASICの勉強を、高校1年からプログラミングのアルバイトを始め、XML、JAVAといったプログラミング言語にも早くから親しんでいたとのこと。その流れで、自然とインターネットに興味を持ち、まだ「YouTube」や「ニコニコ動画」などのサービスが生まれていない2004年頃、これからはインターネットを使った生放送が来ると考え、
「喪服の裾をからげ」というプロジェクトを始めます。自宅から生放送を行うチャンネルまで開設したこのプロジェクトは芸大での卒業制作だったそうで、福嶋さんが「もふくちゃん」と呼ばれる所以となっています。また、ここでのパフォーマンスは、当時からあったネットアイドルの文化の要素をメタ的に取り込んだものでした。福嶋さんにとっては、プログラミングも自分の表現活動の一つだったのです。

ポップカルチャーへのこだわり、そして会社経営
その後福嶋さんは、この卒業制作を偶然目にした現代美術のギャラリーにスタッフとして採用され、バーゼルのアートフェア等、アートの最前線で仕事をすることに。当時はネットバブル全盛期で、いわゆるヒルズ族にアートを売るという仕事をしていたそうです。しかし、もともとポップカルチャーが好きだったこと、給料が手取り20万円に届かない自分とヒルズ族とのギャップを感じたこともあって、福嶋さんはここで編集者に転職します。出版社では、出版社のウェブサイトの構築に関わる仕事や、グラビアの仕事まで幅広く経験したとのこと。 
そのうち、秋葉原で一緒に活動していた知人たちと共に、現在の仕事を始めることになりました。でんぱ組.incのメンバーの中には、この会社の立ち上げ当初から所属しているメンバーもいるそうです。当初は、編集の仕事と両方かけもちしていましたが、次第に現在の仕事の比率が大きくなり、最後は出版社の方を退職し、今の仕事のみに絞ったとのこと。福嶋さんが、こんなに様々な経緯を経て今の仕事につかれていたとは驚きです。 
さて、福嶋さんがモエジャパンの会社化を決断したのは、経営者の知人たちに相談したことがきっかけでした。会社の設立手続はその方面に詳しい知人に依頼してスムーズに進んだものの、勢いで法人化したこともあって、社長としてどのように会社を運営するのかは後から学んだそう。特に最初の決算では大変苦労し、税理士に怒られながら3日間徹夜(!)してなんとか提出したという思い出を語ってくれました。 
プロジェクトが拡大した場合、活動をより安全で継続的に、また効率的に行うために、組織の法人化を検討することが必要です。設立前/設立後の煩雑な手続が障害になり、なかなか法人化に踏み切れないこともありますが、弁護士や司法書士、税理士等のアドバイスを受けることで、負担を軽減しつつ法人化することは十分に可能です。また、法務局に掲載されている法人登記申請のひな形(1)や、市販のマニュアル等も参考になるでしょう。 
法律を用いて、個人の集まりか/法人かという「プロジェクト自身」のあり方をコントロールすること。これも、リーガルによるデザインの1つと言えるのではないでしょうか。

レーベルの運営/「同人」「インディーズ」「メジャー」のお話
現在、福嶋さんは2つの音楽レーベルに関わっています。 1つは、「同人」と「インディーズ」を扱う自社レーベルである「
DearStage Records(ディアステージレコード)」。このレーベルでは、毎シーズン違うやり方で気楽に作品を発表できるとのこと。 もう1つは、MEME TOKYO。トイズファクトリー内に新しく設立されたレーベルで、今は「でんぱ組.inc」が所属しています。ここで、でんぱ組.incの新曲「W.W.D」をご紹介いただきました。まさにアイドルポップソングですね!(会場で聞けなかったみなさんにはこちら) 
福嶋さんは、音楽事業を「同人」、「インディーズ」、「メジャー」と3つの段階に分けてマネジメントをされているとのこと。そこで、それぞれのメリット・デメリットなどを伺いました。 
そもそも、「同人」、「インディーズ」、「メジャー」はどのように違うのでしょうか。 福嶋さんの解説によれば、同人は自主出版で、自社制作/自社直販が特徴です。同人で流通しているアイドル以外の例としては、フリーマーケット、手芸、自分の畑で育てた野菜の直販等が挙げられます。 
ちなみにインディーズとメジャーでは、流通をそれぞれ専門の仲介業者が担当します。両者は流通網に違いがありますが、現在その区別はあいまいで、同じ業者が仲介する場合も。 音楽が売れなくなりつつある現代にメジャーで流通させるメリットは、長期的戦略を考えられる体制があることと、あらゆる媒体に露出することで、(ネット以外での)知名度の上がり方がとても大きいことにあると福嶋さんは言います。

ここでは、興味深い例として、でんぱ組.incのメンバー夢眠ねむさんの曲「魔法少女☆未満」が、有名な日本のネットレーベルの1つである「マルチネ・レコーズ」から、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)
(2)を付与してリリースされたケースが紹介されました。当時はねむさんもまだ有名ではなかったため、ネットで知名度拡大に繋げる狙いもあって、ネット上の音楽プラットフォームの1つ「SoundCloud」を利用したリミックス大会「魔法少女☆未満 REMIXIES」を開催することに。その結果、ギネスに載るかもしれないというくらいの数のリミックス曲がねむさんの下に集まったといいます。またこの曲は、CDパッケージとしてもリリースされました。そこに収録されている曲はネット上で全て無料で聴くことができるにも関わらず、ネットでの評判によって、CDは売り上げが落ちることなくロングテールで売れ続けたとのこと。 
今ほどネットレーベルが盛り上がっていない2009年当時、あえてこのような方法を選んだのは、プログラマーでもあった福嶋さんがCCライセンスに関心を持っていたことに加え、DJ経験のあるねむさん自身も、楽曲のリミックスを集めるプロジェクトに興味を持っていたからでした。「リミックス・コンテストでSoundCloudを使う」という手法は、最近でこそよく見るものの、当時他にはほとんど例がなかったのではないでしょうか。 
福嶋さんによれば、このコンテストを機に、DTM(3)を知らないファンの方がDTMを勉強してリミックスを作ったこともあったとのこと。こういったリミックス合戦の盛り上がりも、「プロレス」として取り込んで盛り上げにつなげるのが同人のやり方です、と福嶋さんは笑います。 
このような考え方は、従来の法律・契約の枠組みにとらわれない、新しい知的財産の活用の一例とも言えそうです。ネット上にある音楽等の作品は、基本的に著作権によって守られているため、勝手にリミックスしたり、リミックスした作品を広く公開したりすることはできません。先ほどご紹介したプロジェクトは、
CCライセンスを使って自分の作品を広く利用して欲しいという意思をあえて表明することで、単に視聴されるだけでなく、ファン自らが楽曲を作ってアイドルの世界観に介入し、さらにその曲が他のファンとの間でも共有されて行くという音楽の新しい楽しみ方を提示した好例と言えるでしょう。 
ところで、アーティストやモデルとして活躍し、最近モエジャパンに所属した「まつゆう*」さんは、2005年からCCライセンスを使用されているとのことです。そもそもCCライセンス自体が、リナックス(4)などのオープンソースのプログラマー文化から出てきた発想であり、福嶋さんが元々プログラマーであることを考えると、プログラミング→音楽という流れも自然なのかもしれません。

カバー曲の権利処理
でんぱ組.incが発表している曲の中には、小沢健二さんの「強い気持ち・強い愛」や、ビースティ・ボーイズの「Sabotage」のカバーもあります。 カバー曲を作って発表するには、著作権の処理が必須です。ビースティ・ボーイズのカバー曲については、先方に1年にわたってオファーしてやっとOKが出たという経緯があったということですが、実際、利用許諾を得るのに苦労したケースはよく聞かれます。 一般に、権利処理については、日本国内の場合は、著作権管理団体のJASRAC
(5)があるため比較的容易に手続を行うことが可能です。JASRACは著作物の利用に対する厳しい姿勢で批判を受けることもあるようですが、JASRACの管理によって著作物をスムーズに利用できることのメリットは非常に大きいようです。また、権利処理の問題とは別に、作品の利用にあたってはレーベル間でのきちんとした筋の通し方があるなど、業界における慣習も根強いとのこと。カバー曲を作ることは、ともするとこの二つの側面をクリアする必要があり、そのための色々な根回しに骨が折れるようです。 
また、海外との交渉ではシンクロ権の問題で苦労する場合も。シンクロ権は、映像と音楽をマッチングするときに必要な権利で、日本では慣行上認められていない権利です。例えば、海外の楽曲を使ってPVを作るような場合には、このシンクロ権について別途権利処理を行う必要があります(6)



























































(1)法務省による『商業・法人登記申請』のページを参照。






















(2)インターネット時代のための新しい著作権ルールの普及を目指し、様々な作品の作者が自ら「この条件を守れば私の作品を自由に使って良いですよ」という意思表示をするためのライセンス。このライセンスを利用することで、作者は著作権を保持したまま作品を自由に流通させることができ、受け手はライセンス条件の範囲内で再配布やリミックスなどをすることができる。







(3)デスクトップ・ミュージックの略で、自宅パソコン等で楽曲制作をする手法










(4)Unixライクなオペレーティングシステム (OS) の1つであり、フリーかつオープンソースなソフトウェア開発・頒布モデルのもとに構築されている。一般にはLinuxカーネルを使用しているOSのことをよぶ。






(5)JASRAC(Japanese Society for Rights of Authors, Composers and Publishers、一般社団法人日本音楽著作権協会)とは、著作権等管理事業法に基づき、音楽著作権の集中管理事業を行う社団法人。国内の作詞者、作曲者、音楽出版者などの権利者から著作権の管理委託を受け、管理楽曲のデータベース化、利用者との間の利用許諾の窓口、使用料の徴収と分配などを行っている。 
(6)シンクロ権については、例えば、諏訪公一『プロデューサーカリキュラム 外国楽曲使用』(公益財団法人 ユニジャパン)を参照。