第6回:「知的財産」をデザインする/トークセッション

オープンとクローズドのバランス感覚
権利のオープンとクローズドのバランスをうまく使い分ける福嶋さんの感覚は、どこから来るものなのでしょうか。 
福嶋さんは、ネット文化だけでなく、もともと二次創作的な文化も好きだったとのこと。ものごとを広く拡散するためにもこの文化は必要で、いまだに同人で何かを発表するときはできるだけオープンな方向でプロジェクトを検討するそうです。自分で利用規約、契約書を作るのは大変ですが、SoundCloudのように既存のプラットフォームをうまく利用しながら、サイト自体がユーザーを守ってくれるプラットフォームがもっと増えて欲しいと福嶋さんはいいます。この点では、音楽データとモーションデータを無料で配布して話題となったPerfumeの「Global Site Project」
(7)の例も参考になるでしょう。 
福嶋さんによれば、自身はオープン志向とはいえ、ディアステージを運営する上では生身の人間であるアイドルを守らなければならない部分があって難しさも多く感じるそうです。その中で、「初音ミク」(8)「東方Project(とうほうプロジェクト)」(9)のようなネット上の存在については、盛り上がってきたときにちょうど秋葉原のカルチャーのど真ん中にいたのもあって、とても可能性を感じているとのこと。 
福嶋さんがそう感じる一方で、若い世代の人たちにとってはオープンであることが当たり前の感覚だといいます。なぜ自由に使っていけないのかわからない、という感覚です。そう考えると、既存のオープンとクローズドという概念自体もどんどん変化していくかもしれません。ここで福嶋さんからは、オープンソースのプロジェクトで現在検討中のものがあるということで、オフレコでいくつかアイデアが披露されました。

知的財産を守るための手段
福嶋さんは、これまで著作権が問題となるようなわかりやすい盗用事例を経験したことはないものの、アイデアやビジネスモデルを盗用されることは日常茶飯事とのこと。秋葉原は元々趣味的な店が中心でしたが、最近はビジネスとしてうまく展開する店が出てくる反面、ビジネスよりも趣味性を重視する店が経済的には厳しくなり、秋葉原のカルチャーの礎を築いた店が埋もれていく、という問題があるそうです。 このようなアイデアやビジネスモデルはどのように守っていくことができるのでしょうか。 
まず、アイデアやビジネスモデルそのものについては、著作権法で保護される「表現」とはいい辛いものです。そのため、音楽やビジュアルなど、何か具体的な表現に落とし込まれていない場合には、著作権で守ることは難しいでしょう。 また、「ビジネスモデル特許」を使う方法がありますが、コンピューターやソフトウェアなどの物理的な動きと一体化したものでないと登録は難しく、現状ではウェブサービスに関連した形でなければ登録は難しいようです。より戦略的には、ビジネスモデル等をウェブサービス化して、それと一体として特許を登録する方法は考えられますが、それだけの初期投資をするのは苦しい場合もあります。 最近は店の外観を立体商標として登録して保護するという動きがあるなど、法律の実務も日々変化しています。そのような変化も踏まえて最善の手法を考える必要があるでしょう。

以上の「法律」による保護とは異なり、道義的に問題のある模倣に対してファンが声をあげてくれることで権利が守られるという、いわば「規範」による保護の視点も考えられます。 福嶋さんも、この点について経験があるとのこと。おたく文化は元ネタが命であり、元ネタを知っていることが尊重されるため、ファンコミュニティでは元ネタが守られる文化があります。ファンの力は強力で、元ネタにフリーライドして儲けるようなことがあれば、ファンコミュニティによる強い批判を受ける場合もあるようです。 福嶋さんは、同じコミュニティ内で似たようなカルチャーが出てきた場合でも、魂の部分が違えば、ファンであるお客さんが守ってくれるという期待を持っているといいます。それぐらいコミュニティの力は信用できるということです。 
一方で、昨今のネット・カルチャーにおいては、このような規範による保護と法による保護の乗りこなし方のバランスが読みにくく難しくなっているのでは、という指摘もあります。 福嶋さんは、世代間でのネットの使い方に温度差があるといいます。若い人は、呼吸をするようにSNS等のネットを使っているのに対し、30代以上の人はそうではない。また、Facebookは、本名でないといけないという点で、キャラクター名という匿名文化がある秋葉原には、マッチしないのではといいます。 このようなネットユーザーの多層化は今後も進むでしょう。特に、法と違ってコントロールの難しい「規範」を乗りこなすには、十分に慎重な対応が求められると思われます。

海外で作品を真似されたら?
ここで、会場より、「海外で作品を模倣された場合に、どのように権利を守ることができるのか」という質問がありました。 
著作権は、表現行為が行われることで、基本的には世界中で保護されますが、それ以外の知的財産権は国ごとに登録しないと原則として権利が発生しません。国際的な知的財産保護を行うためには、特許や商標などの権利を国際的に登録しておく必要があります。 また、海外との契約書では、特に管轄(10)と準拠法(11)にも気をつけて定める必要があります。そうでないと、自分たちの権利が侵害された場合に、海外に行かないと裁判ができなくなります。海外で裁判をするコストはとても大きいので、泣き寝入りになるケースも多いです。また、仕事のやり損にならないように、できるだけ対価は先払いにしてもらうということも重要な視点の1つです。

コンテンツに寄り添う
最後に、オープンとクローズドのバランスを考えるにあたって重要なことを福嶋さんに伺いました。 福嶋さんは、常にコンテンツに寄り添って考えることが重要であるといいます。ねむさんの曲をオープンにしたのは、ねむさん自身とネット・カルチャーに親和性があったことが由の一つでした。オープンかクローズドか、という二項対立ではなく、両方の特性をよく把握したうえでアーティストやコンテンツごとに判断していかなくてはいけない、という言葉で、トークセッションは締めくくられました。 
福嶋さんから最後に指摘があったとおり、今や知的財産の運用は、「オープン」と「クローズド」のどちらかの方針をラフに選択するというだけでは不十分です。 まず、コンテンツをユーザーに体験してもらうためのインターフェイスをデザインし、次に、それを実現するために必要な法的な仕組みを作り込んで行く、つまりリーガルのデザインをする必要があります。本かウェブ、二次利用やリミックスを認めるのか、シェアのプラットフォームをSoundCloudやYouTubeにするのか、自前のウェブサイトにするのか、どのようにマネタイズの仕組みを作るのか。CCライセンスのようなプリセットを利用する場合もあるでしょうし、ウェブサイトの利用規約を用いて緻密にデザインする場合もあるでしょう。少なくとも、作品の第三者による利用を著作権で完全に禁止したり、完全にオープンにしたりするだけではなく、目的に即した「オープン」&「クローズド」を法律的にデザインすることで、新しいユーザー体験を作ることができるのではないでしょうか。 この点で、佐藤秀峰さんによるマンガ「ブラックジャックによろしく」の二次利用の自由化と、そのルールを規定する二次利用規約は、現在最も先鋭的な試みの1つです。CCライセンスではなく、あえて利用規約を使うことで、二次利用可能な元データを比較的容量の軽い画像データに限定し、より高品質のマスター製版データは別途販売するという、マネタイズを意識した精密な著作物のコントロールが行われています。是非一度、利用規約を読んでみてください。

最後に、「Creators and Law」について
本講座「Creators and Law」では、全6回のレクチャー/トークセッションを通して、クリエイターを取りまく社会的な環境としての「リアルスペース」「ウェブサイト」「知的財産」がどのような法律的仕組みで動いているのか、また、どのように法律を利用すればプロジェクトをより持続的で創造的にデザインできるのか、検討してきました。 
本講座で紹介できたのは、クリエイターに関わる法律の導入部分と、それにまつわる事例の一部ではありますが、法律がクリエイターの様々な活動に密接に関係していること、ときには活動の障害になり、ときには活動を新たな創造性を加えるヒントになることを、お招きしたゲストの方々の力もお借りして、ひとまずはご紹介できたのではないかと考えています。 
法律は、それ単独で何かの価値を生み出せるものではありません。クリエイターの創作の目的や具体的な活動と交錯するときに、初めてツールとして人々の役に立つものです。「難しくてとっつきにくいもの」である法律が、本講座を通して、誰にでも使える1つの「ツール」なのだと感じていただければ幸いです。 また、「法律」がツールであるように、「法律家」も、クリエイターがより創造的な活動を行うためのコラボレイターです。このレポートを最後まで読んで頂いた皆様が実際にプロジェクトを運営する際に、私達Arts and Lawが協働させて頂くことができていたら、望外の喜びです。












(7)PerfumeのPVのモーションデータと音声データを公開するというプロジェクト。データを利用した二次創作が許諾されており、マンガ的なキャラクターにダンスを踊らせるなど、多くの二次創作が生み出された。
(8)クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が発売するVOCALOIDの製品名、およびキャラクター名。DTMソフトウェアの一種であるが、キャラクターとしても非常に人気があり、「キャラクター利用のガイドライン」及び「ピアプロ・キャラクター・ライセンス」に基づく、ファンによる二次創作が多数行われている。
(9)サークル「上海アリス幻樂団」が制作したシューティングゲームを中心とする作品群。同作のファンによって多数の二次創作が制作されている。






































(10)特定の事件について、どの裁判所が裁判を行うかという裁判所の間の分担の定めのこと。ここでは、特に国際裁判管轄(特定の事件について、どの国の裁判所が裁判を行えるか)が問題となっている。
(11)特定の(国際的な)取引に適用すべき、特定の地域の法をいう。例えば、ある契約について日本法を準拠法に指定した場合には、その取引における契約の解釈は、基本的に日本法によって行われる。